茅ちゃん日記

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転載//スパコン詐欺事件「異例の捜査」で検察は誰を追い詰めたのか(河野正一郎)

gendai.ismedia.jp

 

スパコン詐欺事件「異例の捜査」で検察は誰を追い詰めたいのか

政界関係者の関与は?

 

「彼とは深く付き合わない方がいいと…」

東京地検特捜部が12月5日、スパコン開発会社「PEZY computing」(以下P社)の社長、斉藤元章容疑者らを逮捕した。経済産業省が所管する国立研究開発法人「新エネルギー・産業技術総合開発機構」(NEDO)から約4億円の助成金を詐取した容疑が持たれている。

メディアにも多数出演・登場し、「スパコン開発の第一人者」といわれた斉藤容疑者が、「安倍首相に最も近いジャーナリスト」と呼ばれる元TBSワシントン支局長だった山口敬之氏と昵懇であったと報じられていることもあって、ネットでは「P社に多額の助成金が渡ったのは、森友学園加計学園と同じく、”忖度”によって便宜が図られた、という構図なのではないか」などと憶測を呼んでいる。

助成金が認められる経緯に「忖度」があったのか、なかったのか−−。スパコンの「スパ」にひっかけて、「もりかけスパ」などと書き込む人もいるように、この事件は、逮捕容疑(=事件の本筋)とは別の「事件の背景」に注目が集まっている。

 

NHKの早朝の特ダネで事件が明るみに出た12月5日午前、私は、斉藤容疑者が米国で起業した頃に出会ったという知人X氏に「話を聞きたい」とメールを送った。すると、即座に折り返しの電話がかかってきた。X氏は早口でまくし立てた後、私にこう言った。

「“彼”とは深く付き合わないほうがいい、と何度も言っておいたのに…」

“彼”とは、山口敬之氏のことだった。

斉藤容疑者と山口敬之氏との関係を最初に報じたのは週刊新潮(2017年6月15日号)だった。山口氏がP社の顧問のような役割を務め、東京・永田町のホテル内の部屋(賃料月額が約130万円)を斉藤容疑者の資金提供を受けて使っていることを報じた。
https://www.dailyshincho.jp/article/2017/06071659/?all=1

X氏によると、斉藤容疑者はスパコンを研究機関などに売り込むとき、山口氏を同行させ、研究機関などの担当者に、「安倍総理の信頼が厚い方で、当社の顧問です」と紹介していたという。X氏も何度か山口氏と会ったことがあるが、話題は政治のことばかりで、「スパコンについては知識がない人なのだろう」という印象を受けたという。

斉藤容疑者は最近、X氏に「金が足りない。本当はコンピューターの製作をしたいが、このところは金集めが仕事の大半になってしまっている」と話していた。NEDOからの助成金で得られるのは開発資金の3分の2にすぎない。少なくとも3分の1は自前で調達しなければならなかったからだ。

X氏は、「斉藤(容疑者)は開発資金を提供してくれる企業経営者らを探せばよかったのに、大手企業からの出資を受けることには消極的だった」と話したうえで、こう付け加えた。

「その結果、国からの補助金を口利きしてくれる期待がもてる人と仲良くなったのだろう」

この発言はあくまでX氏の見立てだ。実際に山口氏がP社顧問としてどんな役割を果たしていたかはわからない。詐取した助成金の使いみちを調べていけば、わかることもあるかもしれない。

だが、別の人物もX氏と同じような感想を抱いていた。P社が開発したスパコンを導入予定だった研究者Y氏だ。

 

  

 
研究者たちの悲鳴

Y氏は斉藤容疑者とこれまで3回ほど会ったことがある。斉藤容疑者は山口氏を紹介したあと、「弊社はベンチャーですが、官邸との関係もあるので、信頼していただいて大丈夫です」と言い、隣りにいた山口氏は自著の『総理』をY氏に手渡したという。

Y氏は山口氏のことを知らなかったが、自宅に戻って渡された本を読み、P社を信頼したという。

Y氏に事件の影響を聞くと、途端に早口になった。

「たいへんなことになった。研究に大きな支障が出る。スパコンは納入されるのか。知っている情報があれば教えてくれませんか」

 

Y氏の素性を明らかにできないため、あいまいな表現になることをご了承いただきたいが、話を要約するとP社のスパコンには以下のような特徴がある。

▽計算性能が高い。
▽装置が小型(小さい体積)なので、装置を置く敷地が必要ない。
▽従来のスパコンに比べ、維持費や電気代がケタ違いに安い。
▽AI研究に勝った国が「次の産業革命の主役」と言われているなか、世界各国がいまAI研究に血道を上げている。P社のスパコンは日本が唯一リードする技術で、今後の研究に欠かせないものだった。

Y氏はこうも言った。

「2020年までにP社のスパコンを導入することを検討しており、どう活用するか研究者同士で話し合っていた矢先に事件が発覚した。P社が不正をしていたのなら、それは罰せられないといけない。だが、せめてスパコンが納入された後にしてほしかった……」

法治国家において刑法犯と疑われる人物を野放しにすることが許されるはずはないし、スパコンの納入が済めば、詐欺容疑が持たれているP社に利益が生じることになる。その点で、Y氏の悲鳴はお門違いの指摘にも見える。

一方で、次の世界的な産業革命の主役の座を射止めるか否かは、日本の“国益”をかけたテクノロジー開発競争といえる。今回、特捜部が事件に着手したことで、日本のAI研究スピードは世界各国に遅れをとることになるかもしれない。

刑法犯罪と“国益”を天秤にかけたとき、私はあえて批判されるのを覚悟したうえで、「Y氏の訴えは理解できないわけでもない」と思ってしまった。

 

検察の本当の狙い

捜査する側の東京地検特捜部も、そのような影響は検討したうえで事件に着手したと思う。それでも特捜部が強制捜査に及んだ背景に、「この事件を端緒に政治家を巻き込んだ汚職事件に発展するのではないか」という見方がある。

証拠資料のフロッピーを改ざんした事件が明るみに出た2010年以降、東京地検特捜部は政治家を逮捕する事件に着手していない。「最強の捜査機関」の復権をかけて、強制捜査に及んだのではないかというものだ。

だが、関係者の話を総合すると、その見方は早計のようだ。ある検察関係者は私にこう話した。

 

「検察が越年捜査するのは異例のことで、可能性は限りなくゼロに近いでしょう。特捜部は斉藤容疑者を年末に起訴して捜査を終了すると考えるのが自然です」

そもそも、国会議員には不逮捕特権があるため、国会が開かれている間に逮捕するには、国会での議決が必要になる。いま開会中の特別国会は12月9日に閉会する予定で、年明けの通常国会の召集日は2018年1月19日とも目されている。特捜部が国会議員逮捕を視野に入れているとすれば、かなりタイトな日程だ。

ある検察関係者は私に、今後の捜査の行方についてこう漏らした。

「捜査が進んで、仮に山口氏に違法な金が流れていたことがわかったとしても、大臣でもない山口氏には職務権限はないので収賄罪にはならず、問える罪は所得税法違反ぐらい。政治家ならさらに逮捕のハードルが上がる。そうなると、今回の捜査の結果は、世界でも高性能なスパコン開発が頓挫する可能性が高まるだけということになる。今回の事件着手には道理がないんです」

事件が着手された12月5日は、奇しくも山口氏から強姦されたとして、ジャーナリストの伊藤詩織さんが慰謝料を求めた民事訴訟の第1回口頭弁論が開かれた日だった。

これについてある政界関係者は「特捜部の案件だから、官邸の了承を受けたうえで捜査に踏み切っているはず。山口氏が立件されるとは思えないが、事件との関連でいろいろと報道される。最近の山口氏の言動などを快く思わない官邸が、山口氏と関係を断つために事件を利用した、とみることもできるのではないでしょうか」と言い、こう付け加えた。

「仮に、今回の事件に政府が関与した疑いが出てきたとしても、特別国会が閉会すれば政府は追及される機会もないし、クリスマスと正月を過ぎれば、多くの人が事件のことを忘れ去っているでしょう。事件に着手するには最高のタイミングだったのかもしれません」

山口氏に今回の事件について、SNSと携帯電話のメールを通じ、斉藤氏との関係など尋ねたい項目を送った。返信がないため、直接電話すると、山口氏は「いま電話に出られないので、すみません」と言って電話を切った。混乱している様子はうかがえるが、元気そうな声だった。それ以後も携帯電話で接触を試みたが、今回の事件について詳細な取材をすることはできなかった。(回答があり次第、追記したい)

斉藤氏が事業について説明する場に同席していたとして、それで「山口氏の深い関与があった」とみるのも短絡的だろう。この事件にはどんな「背景」があるのか。今後、P社のスパコン開発は誰が担うのか、いや、そもそも開発自体が中止されるのか。誰かの「思惑」や「忖度」で国益が失われる結果になれば、被害者は私たちになる。