米国に来年1月、共和党のトランプ政権が誕生する。公職経験の無いトランプ氏は反グローバリズム排外主義的な発言を繰り返し、共和党主流派とも距離を置き、「反既成政治」を訴えて勝利した。どんな政策をどういう布陣で進めるのか。手がかりが少ない中、同氏が選挙中にぶち上げた「100日行動計画」と選挙を支えた陣営「チーム・トランプ」から、その針路を読み解く。

 

 「友人で同盟国である米国との関係を強化していく」。メキシコのペニャニエト大統領は9日、トランプ氏との電話会談後、記者会見を開き、緊張した面持ちで語った。トランプ氏はメキシコからの移民を批判し、国境に壁を造ると主張してきた。同氏の勝利が確実になると、メキシコのメディアは「悪夢が現実になった」と報じるなど、国内に不安が広がっていた。

 ペニャニエト氏は電話会談で勝利を祝福した上で「未来のために信頼関係を築くことで一致した」と説明、不安の払拭(ふっしょく)に努めた。

 トランプ氏は9日未明の勝利宣言で「国家を再建し、アメリカンドリームを新たにする緊急の課題に取り組む」と語った。

 ただ、具体的な政策には触れずじまい。「壁」など過激な発言も封印した。

 このため、各国の首脳は、トランプ氏の真意を探り出すかのように、こぞって電話をかけ、関係継続の言質を引き出そうと躍起になった。当のトランプ氏は会談について何も発信せず、電話した側の各国首脳の口から、トランプ氏の言葉が伝わるという状況だ。

 トランプ氏がどんな政策を進めるのかに注目が集まるが、その青写真が選挙戦最終盤の10月22日に発表した「100日行動計画」に示されている。リンカーン大統領が1863年、南北戦争のさなかに「人民の、人民による、人民のための政治」で有名な演説を行ったペンシルベニア州ゲティズバーグに立ち、「有権者との契約」として明らかにした。

 メキシコが気にする国境の壁や不法移民排除は、トランプ氏の有力支持層の白人を中心に人気が高い看板政策で、計画にも盛り込まれている。計画には「200万人超の犯罪歴のある不法移民強制送還」とあるが、メディアは数字自体が過大だと疑問を呈し、実現性に乏しいと指摘している。

 日本を含め関係国が神経をとがらし、あつれきを生む可能性があるのが自由貿易協定への対応だ。計画では、環太平洋経済連携協定(TPP)については「離脱」を表明。北米自由貿易協定NAFTA)も「再交渉か離脱」と明記した。

 中国については選挙戦中から、中国が輸出を有利にするため、米ドルに対して人民元安に操作しているとして、「最も強大な為替操作国」と批判した。計画にも、中国を為替操作国と認定する、と記されている。

 さらに、「異端児」と称されたトランプ氏の勝因でもある「反エスタブリッシュメント既得権層)」を具体化した政策も並ぶ。

 長老議員が政治的影響力を強めているとの懸念から「すべての連邦議会議員に、任期制限を課す憲法改正の提案」を主張する。

 こうした項目はいずれも物議をかもすものばかり。国際社会、米議会、分断された有権者と、どう向き合いながら実現を図るのか、その手腕が問われる。

 

 ■閣僚候補ジュリアーニ氏ら 陣営幹部優先、息子・娘も政権入りか

 政治経験が無く、党ともぎくしゃくするトランプ政権では、中枢ポストに選挙の功労者が優先的にあてられるとの見方が強い。9日の勝利宣言でトランプ氏は「我々にはすさまじく才能にあふれた人材がいる」と話し、約15分の半分を、壇上にいた選挙陣営の幹部ら「チーム・トランプ」の人物紹介にあてた。

 「ルディは揺るぎがない」。真っ先に紹介したのはニューヨーク市長のルドルフ・ジュリアーニ氏(72)だ。知名度を生かし、最大の擁護者として度々メディアに登場した。司法長官や国土安全保障長官に就く可能性がある。

 「信じられないくらいすごかった」と持ち上げられたのはニュージャージー州クリス・クリスティー知事(54)だ。2月に早々とトランプ氏支持を表明し、政権移行準備チームの責任者を務めている。検事出身でもあり、司法長官のポストが取りざたされている。

 日本にとっては、同盟関係がどう変化するのか気がかりだ。国防長官には、かなり早い時期から支持表明し「最初の男」と紹介されたジェフ・セッションズ上院議員や、「将軍」と紹介されたマイケル・フリン前国防情報局長の名が挙がる。

 外交を担う国務長官には、共和党主流派のニュート・ギングリッチ元下院議長や外交委員長を務めるボブ・コーカー上院議員ブッシュ政権イラク戦争を主導した「ネオコン」の一人、ジョン・ボルトン国連大使候補とされる。

 さらにメディアは、息子のドナルド・トランプ・ジュニア氏も政権入りに関心を示していると報道。トランプ氏は、娘のイバンカ氏女性閣僚候補とまで発言している。

 トランプ氏は選挙戦中、共和党主流派と政策の方針などをめぐり激しく対立した。自身に近い人物で政権を固めるにしても、党主流派抜きの組閣では、人材不足の感は否めない。党重鎮のライアン下院議長は9日の会見で関係を修復する考えを示しているが、既成政治の打破を唱えるトランプ氏が主流派とどう折り合うのかも焦点となりそうだ。

 (ワシントン=佐藤武嗣、杉山正)