10代、憲法と出会った 教育を受ける権利、施設からの進学困難「矛盾」 by朝日新聞
10代、憲法と出会った 教育を受ける権利、施設からの進学困難「矛盾」
2016年5月4日05時00分
憲法論議が高まるとみられる今夏の参院選では、「18歳選挙権」が初めて導入される。10代の高校生らは憲法にどんな思いを抱いているのか。学校のこと、地元のこと、アルバイトのこと。身近な問題に憲法を重ねる若者たちがいる。▼1面参照
■施設からの進学困難「矛盾」
「すべて国民は、法律の定めるところにより、その能力に応じて、ひとしく教育を受ける権利を有する」
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名古屋市の小林爽夏(さやか)さん(18)は3日、岐阜県へ向かった。今春まで17年過ごした同県の児童養護施設の職員や友人らに会うためだ。
4月に名古屋文化短大に入学し、大好きなメイクを学ぶコースを専攻した。鏡が並んだ教室でメイクを落とす練習をしたり、顔立ちが他人に与える印象について学んだり。「毎日がすごい楽しい」
両親の離婚で1歳から施設に入った。アイシャドーなど、施設職員の化粧品を触るのが好きだった。嫌な部分を隠し、ちょっときれいになれるメイク。百貨店の化粧品売り場の美容部員に憧れるようになった。
施設は原則18歳で出なければならないが、学費や生活費を頼れる人はいない。進学か、就職か。迷い続けた。施設の8割の子が進学希望だが、実際に進学するのは2割ほど。学費を払えず退学する例もある。それでも、「後輩に進学の道もあると伝えたい」。利子付きの奨学金を借り、アルバイトでも稼ぎながら学ぼうと思い定めた。
その矢先、昨年冬に施設の園長から、返済の必要がない日本財団の給付型奨学金のことを聞き、応募してみた。面接などを経て合格。月10万円が支給され、学費も出してもらえる。「本当に奇跡です」
憲法26条は、どこかで耳にした記憶がある。「教育を受けたくても受けられない子がいるから、現実とは矛盾した文章だな」。施設の子たちのことを考えるとそう思う。「政治家には、もっと子どもの声も聞いてほしい」
■「ブラックバイト」、対抗できた
「勤労者の団結する権利及び団体交渉その他の団体行動をする権利は、これを保障する」
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千葉県船橋市の高校3年、條大樹(じょうだいき)さん(17)は3日午後、4月から始めたアルバイト先の飲食店でホールに立った。
以前はショッピングモールの和食チェーン店でバイトをしていた。研修は無給で、靴代は給与から天引き。「おかしいな」と思った。
昨年6月に参加した憲法を考える集会で、高校生が団体交渉でバイト先の待遇を改善させたことを知った。集会で出会った労働組合・首都圏青年ユニオン(東京)のスタッフらに同席してもらい、自分のバイト先と団体交渉をした。会社側は、靴代の支給などに同意し、全社的に賃金算定を改善することも約束した。
「憲法28条があるおかげで、僕でも勝てた」。昨年8月には仲間の高校生と「首都圏高校生ユニオン」を結成。長時間労働などを強いる「ブラックバイト」に対抗する活動を続ける。
テスト前にバイトを休めなかったり、深夜に1人で働かされたりした高校生は少なくない。「辞めるなら代わりを連れてきて」「辞めたら求人用の広告費を天引きする」と迫られたり、セクハラを受けたりした例もある。「自分のバイト環境がブラックだと知らない人が多い。高校生でも、声を上げれば変わることを知ってほしい」
■沖縄と本土、隔たりある
「すべて国民は、法の下に平等であって、人種、信条、性別、社会的身分又(また)は門地により、政治的、経済的又は社会的関係において、差別されない」
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沖縄県北中城(きたなかぐすく)村の高校2年、上地周(うえちあまね)さん(17)宅の向かいには、米軍キャンプ瑞慶覧(ずけらん)が広がる。隣の宜野湾市には、市街地に囲まれた米軍普天間飛行場もある。
小中学校では、米軍機が上空を飛ぶたびに、騒音で授業が中断した。安全保障のために米軍基地が必要だという主張は、ある程度わかる。でも、日本にある米軍専用施設の7割以上が沖縄に集中する現状は受け入れられない。普天間飛行場を同県名護市辺野古に移設する国の計画にも反対だ。
沖縄では2014年の知事選で、辺野古移設に反対する翁長雄志氏が当選した。憲法は「国民主権」をうたう。「日本国民でもある県民の思いに反して、国が勝手に移設を進めるのはどうなのかな。本当に民主主義なのかな」。14条が規定する「法の下の平等」についても、疑問が膨らむ。「本土の人と沖縄の人は本当に平等ですか?」
今年3月、東京で18歳選挙権を考える高校生らの催しに参加し、辺野古移設について議論した。「沖縄に基地は絶対必要」「県外に移せばいいの?」といった意見も出た。沖縄戦や米軍統治の歴史を、本土の人はほとんど知らないと思った。
今夏、本土の高校生を沖縄に招くイベントを計画中だ。「もっと沖縄のことを知ってほしい」。沖縄の問題を、日本全体で考えて欲しいと願っている。
(伊東和貴、佐藤恵子)