海外で問題視?!(※イメージ)

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<安倍政権が進める神道復権の中心にある伊勢神宮の役割を考えると、G7首脳の訪問は太古の森と清流を気楽に散策する以上の意味を持つ>(英ガーディアン)

伊勢神宮訪問はいくつかの批判も呼んでいる。神道は日本の神話と歴史を国家主義と不可分に結びついた宗教に一体化させており、世界のリーダーが訪問するには不適切>(AFP通信)

 これらの外電はどれも、サミット初日の5月26日午前に行われた伊勢神宮三重県伊勢市)訪問について、政権と国家神道との関係に注目して批判的に伝えていた。

 この日、各国首脳は伊勢神宮内宮の神域で鷹司尚武大宮司に迎えられ、正殿を囲む外玉垣(とのたまがき)の内側、普段は一般参拝客が入れない「御垣内(みかきうち)」まで進んだ。

 伊勢神宮のホームページでは「我が国の伝統にそった形で表敬いただいた」とあるが、各国首脳は二拝二拍手一拝の神道形式の礼拝は行わず、会釈した程度だったという。外務省も「参拝」ではなく、「訪問」という言葉を使う。しかし、国際ニュース通信社「ロイター」記者のティム・ケリー氏はこう疑問を呈する。

伊勢神宮というのは宗教的な場所国家主義的な意味合いがあったのかもしれませんが、だとしたら世界のリーダーが訪問するのは少し違和感があります。例えば英国でG7があったとしても、英首相が世界のリーダーたちをウェストミンスター大聖堂に連れていき、大司教に面会させるということは考えられない」

 天照大御神(あまてらすおおみかみ)を祀る伊勢神宮内宮は、「パワースポット」として人気の観光地だが、実は別の顔も持っている。宗教学者島薗進上智大学特任教授はこう語る。

伊勢神宮は戦前は神聖な天皇と一体で国家の頂点にあり、全国民が崇敬を強いられた施設。こうした歴史を踏まえたら、国家的行事に宗教施設を用い、外国首脳を巻き込むようなことはすべきでなかった。訪問を実現させた背景には、国家神道の復権など戦前回帰を志向し、安倍首相に影響力を持つ『日本会議』的な考え方があるとも考えられる」

 G7首脳を出迎えた前出の伊勢神宮の鷹司大宮司日本会議顧問でもある。

 日本会議――。安倍政権の思想的背景を語るとき、今や避けて通れない組織だ。

 そして伊勢神宮は「日本会議」にとって特別な意味を持つという。日本会議ウォッチャーで「子どもと教科書全国ネット21」事務局長の俵義文氏は語る。

日本会議の前身の『日本を守る会』が1974年に結成されたのは、鎌倉・円覚寺貫主の朝比奈宗源氏が伊勢神宮に参拝した際、『世界の平和も大事だが今の日本のことをしっかりやらないといけない』と“神示”を受けたことがきっかけと伝えられています」

 先のガーディアンの記事も、G7首脳の伊勢神宮訪問を実現させた安倍首相の思想を分析する中で、「日本会議」の名前を出し、次のように分析している。

<「日本会議」は安倍首相と彼の内閣のほとんどを含む3万8千人の会員を持ち、日本は西洋の植民地主義からアジアを解放したのであり、戦後の憲法は国の本来の特徴を骨抜きにしたと信じている

 本誌が昨年10月、既報したとおり、国会議員らでつくる日本会議国会議員懇談会」の幹部名簿には安倍首相と麻生太郎財務相が「特別顧問」を務めているほか、自民党幹部の名前がズラリと並ぶ

 第3次安倍改造内閣の閣僚では、確認できているだけでも20人中13人が日本会議国会議員懇談会に所属。安倍政権へ強い影響力を持つことが、この事実からもうかがい知れる。

 この組織が今、大きな注目を集めるようになったきっかけは、著述家の菅野完(たもつ)氏が5月に出版した『日本会議の研究』(扶桑社新書)をめぐる騒動だ。

 当の日本会議側が同書の発売直後、版元の扶桑社社長に対し、内容に事実誤認があるなどとして出版停止を申し入れたことが発覚。初版8千部に過ぎなかった同書の存在がクローズアップされたのである。

 この新書は増刷を重ね、現在4刷12万6千部のベストセラーになっているという。扶桑社の担当者も「予想以上の売れ行き」と驚きを隠さない。

 都内の大手書店の新書ランキングでは軒並み上位。どの書店でも関連本とともに、目立つ位置に大量に平積みされていた。

「発売してからとにかく売れ方が異常。在庫が瞬く間になくなって、『いつ入るんだ』と問い合わせが相当数来た。そもそも新書は政治関連がいちばん売れるジャンルですが、それにしても異常な売れ方をしてますね」(都内大手書店担当者)

 今後、『日本会議の全貌』(俵義文著、花伝社)、『「日本会議」の正体』(青木理著、平凡社新書)など関連本が続々と発売される予定だ。

扶桑社に経緯を尋ねてみたが、「現在係争中の案件にも触れるためコメントは控えさせていただきます」(担当者)とのこと。

 日本会議にもどんな抗議をしたのか問い合わせたが、同会広報部は書面で以下のように回答してきた。

「長年扶桑社の出版事業の普及拡大に協力関係のある本会の立場で扶桑社社長に申し入れたものです。申し入れ書の内容がインターネットを通じて即時公開されたことは極めて遺憾」

「申し入れ内容の詳細、および具体的箇所の開示については現時点では差し控えます」(本誌・小泉耕平、秦 正理)

週刊朝日 2016年6月24日号より抜粋