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茅ちゃん日記

世の中のこと、思うことをつづります

日刊ゲンダイより

注目の人 直撃インタビュー
水島朝穂早大教授が危惧 「自衛隊制服組の暴走始まっている

 

 安保法制反対の国会前デモで、「安保法案に反対する学者の会」の呼びかけ人として何度もマイクを握ったのが、水島朝穂早大法学学術院教授だ。若者が自立して行動を起こし、全国に伝播した反対の声は、「憲法を破壊した安倍首相でも壊せない」と訴える。法案通過後、国民に求められている行動とは?

――法案成立後、ヒトラーの言葉を引用して、反対運動を続ける大切さを訴えられていましたね?

「わが闘争」に、「大衆の理解力は小さいが、その代わり忘却力は大きい」「宣伝はこれに依拠せよ」というくだりがあります。安倍首相はヒトラーの言葉通り、忘却戦術を取ってくるでしょう。

――新3本の矢とかアベノミクス第2ステージとか内閣改造の話題とかで、けむに巻いていく。安保法案のことなんか、過去の話題にしてしまう。
 
改憲を狙う権力者たちは閣議決定による解釈改憲で、集団的自衛権の行使容認と地理的概念を外した自衛隊の海外展開を可能にしました。しかし、国民の反対運動を見て、「やばかったなあ」と実は思っているのではないか。だからといって、彼らは明文改憲をあきらめたわけではない。国民の慣れ、思考の惰性に期待しているのです。

――立憲主義を否定した乱暴な政治手法が、いつの間にか定着してしまう。怒りを忘れて、それが日常になってしまう?
 
そうです。実際、来年度予算で防衛省は何を買うんですか? F35、オスプレイ、水陸両用強襲輸送車など、専守防衛から海外遠征型にシフトしているのは明らかです。米豪軍などとの演習を見れば、尖閣などの島嶼防衛とは明らかに異質な攻勢作戦を想定していることが疑われます。国民が知らないうちに装備が変わり、予算がどんどん膨らんでいく。法案成立の真の危うさは、今までできなかったことが国会のチェックもすり抜け、国民も知らないうちにどんどん拡大していくことです。消費税が10%になり、福祉予算が削られ、防衛費が青天井になる。
 
■遠からず、米軍のために自衛隊の犠牲者が出る

――そういえば、参院特別委員会では共産党が暴露した防衛省の内部資料によって、制服組の暴走が明らかになりましたね。

 昨年12月中旬、河野克俊統幕長が訪米して、米国の統合参謀本部議長や陸軍、海兵隊のトップ、空軍のナンバー2、海軍の作戦部長、国防副長官らと会談しました。その会談資料によると、河野統幕長はオディエルノ陸軍参謀総長に「安保法制は予定通りか」と聞かれ、「来年夏までに終了するものと考えている」と答えています。

――国会でも大問題になりましたが、この河野統幕長はいわく付きなんですよね?

 2008年にミサイル護衛艦「あたご」が漁船に衝突、乗組員親子が犠牲になった事故の際、記者会見したのが当時の河野海将補です。薄ら笑いを浮かべ、緊張感のない態度でメディアに批判されました。漁船が護衛艦を避けるのが当然という意識がありありでした。海自の場合、50年代から米海軍と一体で行動してきているので、エリート幹部たちは身も心も米国モードで育っている。自分たちこそが「国際貢献」「日米同盟」を担っているという驕りがある。
 
――だから、国会審議を軽視するような発言が飛び出すわけですね。
 
しかも、この時の会談で河野氏は他にもとんでもないことを言っているんです。自衛隊はエボラ熱対策のために米アフリカ軍(AFRICOM=司令部はドイツ・シュツットガルト)に連絡官を派遣していますが、河野氏は「エボラ熱対処後も連絡官派遣を継続し、情報収集や我々のできることを検討したい。また、自衛隊は海賊対処を実施しているが、ジブチは海賊対処のみならず他の活動における拠点にしたいと考えている。防衛駐在官の増派も検討しており、AFRICOMとの連携を強化したい」(ワーク国防副長官との会談)と。「今後はPACOM(太平洋軍=アジア・太平洋地域担当)、CENTCOM(米中央軍=中東担当)、AFRICOMとの連携を強化して参りたい」(デンプシー統合参謀本部議長との会談)とも言っています。
 
――勝手に世界中で米軍と協力すると約束しているんですね。
 
 ジブチを拠点にしてウイングを広げる。テロとの戦いにも自衛隊を送り込む。米軍が世界で展開する6つの統合軍のうち、3つで協力する。そういうことを宣言したも同然です。

 米軍が重視しているのは自衛隊集団的自衛権を行使できる存立危機事態ではなく、米軍を後方支援する重要影響事態法と平和支援法の方です。弾薬を運ぶことや給油なんて、自衛隊がやらなくても米軍は自己完結している。自衛隊に一番やってほしいのは捜索救助活動でしょう。遠からず、米軍のために自衛隊の犠牲者が出ると思います。政府内部でも国会でも議論していないのに、米軍トップと勝手に話を進める制服組の暴走に、背広組も内心、穏やかではないでしょう。
 
――戦前をほうふつさせるようなイヤな動きですね。

 それでなくても、安倍政権は今年3月、「文官統制」を葬り去っている。防衛省設置法を改正して、背広組も制服組も対等に大臣を補佐できるようになり、文官優位が崩された。戦前は陸海軍大臣が反対すれば、内閣は総辞職です。その反省もあり、文官スタッフ優位制という特殊な日本的仕組みができた。この3月にそれが実質的になくなった。

――ますますこの政権には、監視と選挙での鉄槌が必要ですね。

 選挙で負けさせ、政権交代を実現させて、昨年7月1日の閣議決定を撤回させることが必要です。あの閣議決定で、安倍政権憲法解釈を変えてしまった。新3要件を満たせば、限定的な集団的自衛権は許される。今後はこの解釈が法律の運用の基本になっていく。それだけで社会がどんどん変わっていく。
 
 

 

■「安保関連法廃止法案」を議員立法

――忘却戦術に乗ってはいけませんね。

 そのためには安保関連法廃止法案を議員立法で出すことです。すでに盗聴法や政党助成法などに廃止法案が議員立法で出されています。参考になるのは07年の「イラク特措法廃止法案」で、衆院で3度、参院で1度出され、参院では可決されています。大マスコミが報じないので騒がれなかったが、安保法制の違憲性を明示し、訴え続けるには有効です。

――それにしても、この政権は露骨ですね。

 普通の自民党政権なら要職に就けないタイプの異様な人材が跋扈している。そういう人々が安倍首相の使えるうちに、今まで世論や憲法によって抑制されてきたことを全部やっちまえ、と焦っているのです。消費税増税、派遣労働の拡大、原発の再稼働等々、十分な議論が必要な課題をサクサクと決めていってしまう。民主国家とは思えない乱暴さが目立ちます。
 
 
――特定秘密保護法から武器輸出三原則の見直し、経団連の武器商人化、憲法破壊まで、あれよあれよですものね。

 登場人物も筋悪ですよ。法的安定性を否定した礒崎陽輔首相補佐官は、法制局参事官になりたいけどなれなかった過去がある。政治家になってから「俺が自民党の法制局長官だ」と威張っている。コンプレックスが議員になってからいびつな形で表れています。

――安倍首相も同じようにいわれますね。

 この政権で重用されている官僚、政治家には同じようなタイプが多い。コースから外れた人が、首相のお友達ということで、序列を超えて重要なポストに就いている。世襲3代目の北朝鮮の恣意的人事とそっくりですよ。能力に疑問符がつくので、その分、恐怖支配になる警察、国税、検察を押さえて、マスコミを脅し、ビビらせている。能力的に最弱の政権が最強の権力を振りかざしているように見えますね。

▽みずしま・あさほ 1953年生まれ、早大大学院修了。広島大助教授などを経て早大法学部教授。2004年から早大法学学術院教授。専門は憲法・法政策論。