過去2度も廃案になり、政府が「三度目の正直」で国会に出していた改正労働者派遣法が11日、衆院本会議で可決、成立した。企業は人を代えれば派遣社員を使い続けられるようになった。働き手からみると、3年ごとに職を失う危機に陥りかねない。1985年の制定以来となる大転換だ。

これまで企業が派遣社員を受け入れられる期間は、専門的とされる「26業務」に制限は無く、それ以外は原則1年、最長3年だった。改正法はこの制約を事実上撤廃し、最長3年ごとに人を代えれば同じ仕事を派遣社員に任せ続けられるようになる。

 派遣社員の働き方は大きく変わる。最も影響するのは、これまで派遣期間が無制限だった26業務の人たちだ。

 都内に住む50代の派遣社員の女性は約15年間、「事務用機器操作」として、同じ会社でパソコンを使って経理書類の作成などに携わってきた。お茶出しや電話受けといった様々な業務もこなしてきた。

 これまでは3年を超えて派遣社員として働くことができた。だが、今後は派遣会社で無期雇用されている場合を除いて、同じ部署での勤務は3年まで。女性は今年に入って派遣先から「3年後にはやめてもらう」と通告を受けた。法改正を理由にされたという。「正社員の道が閉ざされたばかりか、職まで失うことになった」とため息をついた。

 26業務以外の派遣社員にも変化はある。従来は同じ部署での派遣期間は3年に限られていたため、前任者がいた場合に働けるのは残り期間に限られていた。この制約は無くなり、誰でも派遣社員として3年間は働けるようになった。

 ただ、それで身分が安定するとは限らない。これまで企業は3年間、派遣を使った場合、その仕事で派遣を続けて使うことはできなかった。働いていた派遣社員に直接雇用を申し込むことが義務づけられていたが、改正法ではその制約が消えた。

 企業は、労働組合などの意見を聞いた上で人を代えれば、同じ仕事を派遣社員に任せ続けられるようになる。直接雇用につながる機会が減るとの指摘もある。

 

 ■雇用安定策これから

 改正法の施行は30日。11日夕には、法の運用の規則などを話し合う厚生労働省の審議会が開かれた。

 「正社員化を進める法案だと首相は言ったが、正社員化に向けた取り組みはどこに書かれているのか」

 連合幹部は、さっそく厚労省幹部にただした。細かな規則が、今後の派遣社員の処遇を大きく左右することもある。

 話し合うテーマの一つは、派遣社員の雇用を安定させるための具体策だ。改正法は、派遣会社は派遣期間が終わる派遣社員のために、派遣先に直接雇用を求めたり、新たな派遣先を探したりしなければならないと定める。参院は、この規則をより効果があるものにするため付帯決議を出している。派遣会社が義務を逃れたりしないことや、派遣社員の希望に沿うことなどを規則に盛り込むよう求める内容だ。新しい派遣先を紹介する場合、賃金や通勤時間などがどの程度であれば許されるかについても、審議会で話し合うことになる。

 審議会では、派遣社員の処遇を派遣先の賃金レベルとバランスを取るための方策についても話し合う。ただ、そもそも「賃金のバランス」とは、どれぐらいの格差までが許されるのか、極めてあいまいだ。

 施行後の課題も残る。派遣社員は約120万人と、労働者全体に占める割合は小さい。しかし、野党が「改正法は派遣労働を広げる」と指摘するように不安定な働き方を強いられる派遣社員が増えれば、日本の雇用全体が安定しない。

 (北川慧一、編集委員・沢路毅彦

 

 ■<考論>ルール明確になった

 中村天江(あきえ)・リクルートワークス研究所主任研究員 あいまいだった業務区分がなくなり、ルールが分かりやすくなった点は評価できる。派遣で働く人は3年おきにキャリアを真剣に考える時機が来る。(派遣会社に)雇用安定やキャリアアップ支援の措置を義務づけることで、正社員を目指す環境づくりも前進した。派遣会社を許可制にし、悪質な業者が関われなくなる点も意味が大きい。

 

 ■<考論>国際的な流れに逆行

 高橋賢司・立正大学准教授(労働法) 派遣労働を厳しく規制する独や仏などの国際的な潮流に逆行する。独は2011年に「派遣は一時的労働に限る」と法律に明記し、無期限派遣は不可能になった。日本は改正で「正社員への道を開く」というが、たとえば派遣先への直接雇用の依頼を派遣会社に義務づける程度では効果は期待できない。派遣労働という不安定な雇用が増える恐れがある。