■ジャーナリスト・池上彰さんの話

 全ては2003年の米ブッシュ政権のイラク攻撃から始まった。

 少数派のスンニ派が多数派のシーア派を抑圧していたフセイン政権を倒せば、両派が殺し合うことは当然、予想できたはずだ。一党独裁だったバース党の党員を公職から追放し、その結果、国家が崩壊。内戦が始まり、「イスラム国」の前身だった過激派が組織されていった。

 「イスラム国」人頭税で徴税し、インフラ整備も行っている。統治しているのは、フセイン政権を支えていた官僚などの行政のプロだ。

 「イスラム国」に加わっている若者の多くは、中東地域から欧米へ渡った移民2世だ。それぞれの社会で閉塞(へいそく)感を感じ、インターネットで知った「イスラム国」の「ジハード」や「いまの体制を打ち破る」というメッセージが魅力的に映るのだろう。

 ヨルダン「イスラム国」への米軍の空爆に加わっている。日本はそのヨルダンに、難民支援などの人道的資金援助をしている。その分、ヨルダン政府は難民支援への財政負担を減らして、軍事資金にまわすことができる。今回、人道的支援であっても、敵とみなされることが露呈した。

 「イスラム国」は、ヨルダン国内が混乱し、弱体化することを狙っている。今回の事件は、「ヨルダンに対して支援をするな」という脅しだったと考える。

 とはいえ、日本は人道支援を続けていくべきだ。「イスラム国」周辺には、親日の国が多く、そうした国々との関係は大切にしていかなければならない。

 今回の映像で「イスラム国」は、日本も標的だと宣言した。注意は必要だと思うが、過剰に反応しておびえる必要はない。それは「イスラム国」の思うつぼになってしまう。

 私がNHKで担当していた「週刊こどもニュース」に出演してもらったのがきっかけで後藤健二さんと知り合った。NHK退社後、中東へ取材へ行くことが増え、後藤さんに取材の協力をしてもらっていた。彼は何が「危険」で、何が「そこそこ危険」なのかを判断できるベテランのジャーナリストだ。戦争や紛争で、真っ先に被害者になるのは女性と子ども。その様子を映像に収めて伝えたいという思いがあった。

 誰かが現地に行って取材しなければ、その戦争は忘れられた戦争となり、悲惨な状況が長引く。伝えるという使命感、責任感を持っていた。テレビのニュースで、悲報を知り、ショックで言葉がない。悲しいというか、怒りというか、無力感が募るばかりだ。(構成・山田優

     ◇

 50年生まれ。NHK記者を経て、05年からフリー。中東も度々、取材している。